
それアウトです!
態度
男性上司が女性従業員の肩に手を置いて話す
企業におけるコンプライアンス違反が頻繁に取り沙汰されている。
昨今、何気なく発した一言やしぐさがきっかけで、大問題に発展するケースも少なくない。本コラムでは、つい言ってしまいがちなキーワードや態度から、なぜそれが「アウト」なのかを掘り下げよう。
- ハラスメント
- パーソナルスペース
- 接触
仕事でミスをして落ち込む従業員を励まそうと、上司が部下の肩や背中にそっと手を置く――。そんなシーンを見かけたり、自身が行ったりしていないだろうか。上司に悪気がなくても、触られることに嫌悪感を抱く人はいる。
体への接触に対する感覚は個人差が大きく、信頼関係や親密さによっても異なる。新型コロナウイルス禍で、人との接触を極力避けた期間があった。その影響もあり、特に若者世代と中年層以上においては、人と人との精神的・物理的な距離感に差がある。
人に触るという動作は、一般に想像するよりデリケートな問題だ。専門家によるカウンセリングの現場では、相談者の手を握って落ち着かせるといった行為は、相手の許可がない限り行わない。それほど相談者に与える影響は強い。医療従事者も、治療の際に「腕を触りますよ」と患者に声かけしてから接触する。
職場では相手の体に触れず、「失敗を受け止めて一緒に対処しよう」と言葉で励まし、支えるのが望ましい。
個々の感覚・常識は異なる
他人に近づかれると無意識に緊張する空間をパーソナルスペースと呼ぶ。相手との関係性や個人差による違いはあるものの、一般に両手を広げた距離にあたり、横方向より正面方向の方が広い。また、女性のパーソナルスペースは男性より広いといわれる。同じ距離でも男性は気にせず、女性は不快感を持つ可能性がある。
過去にセクハラなどの被害にあった人は、同じ場所を触れられるとトラウマのように当時を思い出してしまうケースもある。それほどまでに、触る動作には注意を払う必要がある。
体への接触に対する感覚が、男女で違う研究結果もある(※)。「女性は全くの他人の異性から触れられるのは、手を除いて全身NG」「男性は異性なら全くの他人でも全身OK」「女性は同性から触れられるのは問題ない」「男性は同性から触れられるのは、誰であっても手足を含めて全身NG」というものだ。
接触に関する感覚は男女差だけではない。世代、育った環境、文化圏など多くの要素が影響し、非常に複雑だ。個人の感覚や常識が異なると理解したうえで、時代による変化を認識し、ビジネス上で不要な体への接触は避けるよう心がけたい。
- ※英国のオックスフォード大学とフィンランドのアールト大学の科学者チームが、米国科学アカデミーの正式機関誌「米国科学アカデミー紀要」に発表した研究成果
稲尾 和泉
クオレ・シー・キューブ 取締役2003年4月からクオレ・シー・キューブにてカウンセラーおよび研修講師。産業カウンセラー/キャリア・コンサルタント、精研式SCT(文章完成法テスト)修士、日本キャリア・カウンセリング学会会員。共著に『パワーハラスメント』(日本経済新聞出版)など