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キーワードは「柔軟性」
レジリエントな街づくり

従来の街づくりでは、清潔さや安全性、利便性が重視されてきた。
近年、"レジリエント"が街づくりの重要な鍵とされている。
多様な危機に対し、柔軟に対応できる街づくりが各地で進められる。

  • レジリエント
  • 国土強靱化
  • 都市計画
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「堅い木は折れる」ということわざがある。柔軟性のない堅いものは折れやすく、柔らかいものはしなやかで折れにくいとの意だ。近年、街づくりにおいても、多様な危機に対し、柔軟に対応できる「レジリエントな街づくり」が各地で進められる。

レジリエント(resilient)は英語で"回復力のある""しなやかな"を意味する。2001年に米同時多発テロによる甚大な被害を受けたニューヨークで、大きな物理的・精神的危機から回復する合言葉として使われた。
13年に開催された世界経済フォーラムでは、会議のメインテーマに「社会のレジリエンス(回復力、しなやかさ)の強化」が掲げられた。同年、米国の慈善事業団体ロックフェラー財団が「100 Resilient Cities(レジリエント・シティ)」プロジェクトを立ち上げ、レジリエントな街の構築を世界中で進めると宣言した。

日本では、11年の東日本大震災以来、レジリエントな街づくりに対する関心が高まった。日本政府は14年に国土強靱化基本計画を策定した。強さとしなやかさを備えた安心・安全な国土・地域・経済社会の構築を目指し、国土強靱化(ナショナル・レジリエンス)の取り組みを推進すると決めた。15年に国連総会で示された。SDGsにおいても、目標11に「住み続けられるまちづくりを」を掲げている。包摂的で安全かつレジリエントで持続可能な都市及び人間居住の実現を目指すとし、自然災害からの保護、持続可能な交通システムの構築、都市計画の改善、文化・自然遺産の保護などが含まれる。レジリエントな街づくりは国内外の課題だ。

現在、都市部では、自然災害、テロやサイバー攻撃といった外的要因だけでなく、景気の悪化、人口減少、地域コミュニティ活力の低下、インフラの老朽化といった内部で進行する危機も少なくない。柔軟性をもって多様な危機を受け止め、しなやかに回復させるのがレジリエントな都市だ。
達成には何が必要なのか。経済協力開発機構(OECD)は、都市をレジリエントなものとする要素を「経済」「社会」「組織」「環境」の4つの側面から分析している。

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            【Economy(経済)】1.産業が多様化し成長を生み出す 2.イノベーションが経済をけん引する 3.労働者に多様なスキルがある 4.インフラが経済活動を支える
            【Society(社会)】1.包摂的で一体化した社会 2.市民のネットワークが活発 3.市民に公共サービスが行き届く
            【Environment(環境)】1.持続可能な都市開発 2.インフラが適切であり信頼できる 3.適切な自然資源が得られる
            【Institution(組織)】1.リーダーシップと明確な長期ビジョン 2.公共セクターに適切な源がある 3.他政府との連携が行われる 4.開かれた政府であり、市民参加が活発

レジリエントな都市のドライバー(駆動力)

出典:国土交通省「レジリエンスな都市 OECD報告書(暫定版)の概要」

経済では、多様化した産業が成長を生み出すとともに、イノベーションによる経済のけん引がレジリエントな都市の要因とする。社会では、一体化した社会で市民ネットワークが活発であり、公共サービスが行き届いた都市をレジリエントとする。組織では、リーダーシップと明確な長期ビジョンが重要視される。環境では、適切なインフラと自然資源がレジリエントな都市の鍵となる。

日本各地で進むレジリエントの実現

日本は、地震、台風、洪水といった自然災害が多い国だ。人口減少、少子高齢化といった課題も多くの都市が抱える。柔軟性をもって危機を受け止め、しなやかに回復するための試みがいくつかの都市で行われている。

19年、京都市は「京都市レジリエンス戦略」をまとめた。魅力と活気に満ちたレジリエント・シティ実現に向けて取り組む。自然災害による被害や人口減少、空き家問題に対応する施策をリーディング事業と位置づけ推進する。特徴的なのは、伝統文化におけるレジリエンスだ。京都では伝統文化の後継者不足が進み、今後ますます厳しくなると予測される。伝統文化が色濃く残る西陣地区は、都市のレジリエンス向上に文化の後継・発展は不可欠との観点から「西陣を中心とした地域活性化ビジョン~温故創新・西陣~」を策定した。

自然を生かしたレジリエントな街づくりを行うのは金沢市だ。ユネスコが定める創造都市でもある金沢市は、1968年に全国の自治体で初めて「金沢市伝統環境保存条例」を制定した。自然環境が持つ機能で課題を解決しようとする考え方で、街路、用水、緑地の保全に努める。

公園緑地や庭園は災害時に避難場所として機能し、防災・減災にも役立つ。観光資源、市民の憩いの場との側面もあり、人々のつながりをつくる場にもなる。金沢市は公園緑地や庭園、用水などを「グリーンインフラ」と位置づけ、維持・保護・保存を徹底的に行い、街の柔軟性を高めている。

レジリエントが重要なのは街だけではない。サプライチェーンの分断や諸コストの急騰、自然災害による社内インフラの破損など、企業も多くの危険にさらされている。変化が激しく先行きが見えにくいVUCA(ブーカ)の時代と呼ばれて久しい。社会の不確実性が増す中、企業でも迫る危険にしなやかに対応し回復するレジリエント力が、より強く求められる。
堅く折れないことを志向するのではなく、しなやかに回復する力を重視する時代へ。レジリエントは、街、企業、人にとっての現代を生きる鍵だ。

  • Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の頭文字をとった造語
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