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時事ニュース
食料の輸入は水の輸入と同じ?
バーチャルウオーターから水問題を考える
世界的に水不足が深刻化しており、水問題が喫緊の課題となっている。
水資源が豊富なイメージのある日本が、大量の水輸入国!?
昨今関心が高まる「バーチャルウオーター」という概念から、水問題をひもとく。
- バーチャルウオーター
- 水問題
- 食料自給率
人口増加、温暖化による気候変動などにより、水不足が世界的な問題になっている。世界人口は2022年に80億人を突破、2060年頃には100億人に達すると予想されており、水の需要は増え続けている。一方、温暖化による干ばつや雪解け水の減少は、必要な量の水が得られないという問題を引き起こしている。
ユニセフによると、2022年時点で汚染されていない「安全に管理された水」を利用できない状況に置かれている人々は、22億人に上るという。2050年には39億人、世界人口の実に40%以上が水不足に陥るとの予測もある。

こうした中、注目が集まっているのが「バーチャルウオーター」だ。バーチャルウオーターとは、食料を輸入している国が、その輸入した食料を生産したらどの程度の水を必要とするかを推定したもの。ロンドン大学東洋アフリカ学科名誉教授のアンソニー・アラン氏が提唱した概念である。
製造業でも水を使用するが、私たちが食料としている野菜や穀物、牛や豚などの畜産物を生産するためにも、大量の水が使われている。例えば、1kgのトウモロコシを生産するためには1800リットルの水が必要だ。牛肉には、さらに大量の水を必要とする。牛はトウモロコシなどの穀物を大量に消費するため、牛肉を1kg生産するには2万リットルもの水を使うことになる。トウモロコシを1kg輸入したら1800リットルの水、牛肉を1kg輸入したら2万リットルの水を輸入したのと同じことになる。これが、バーチャルウオーターの考え方だ。
具体的なメニューを参考にすると、食にどれだけの水が使われているか、よりリアルに感じることができる。環境省「バーチャルウオーター量一覧表」によると、カレールー1人前のバーチャルウオーターは、152リットル。そば1杯のバーチャルウオーターは、実に667リットルにも上る。コーヒー1杯でもバーチャルウオーターは210リットルで、私たちの食を満たすには大量の水が使われていることが分かる。
バーチャルウオーターの視点で見ると日本は大量の水輸入国
バーチャルウオーターは、水資源に恵まれた国々から水の供給が不足している国々に輸出されているのが理想的な状態だが、実際はそうはなっていない。「世界水の日報告書 2019」によると、バーチャルウオーターの輸出量は、アメリカ、パキスタン、インド、オーストラリア、ウズベキスタン、中国、トルコで世界の約半分を占める。いずれも水不足に悩まされている国だ。パキスタンやウズベキスタンといった新興国だけではない。アメリカも西部を中心に水不足が発生している。
バーチャルウオーターは農産物や畜産物といった食料を生産するために必要な水の量を表すため、基本的に食料自給率が低いと輸入量が多くなる。日本の食料自給率はカロリーベース(※)で38%と、先進国では最低の水準だ。バーチャルウオーターの輸入量は、オランダ、イタリア、ドイツなどに次いで世界6位、1人当たり年間100万リットルものバーチャルウオーターを輸入している。これは500ミリリットルのペットボトルに換算すると200万本に相当する量だ。
- ※国民が1日に摂取する総カロリーのうち、国内で生産された食料から得られる割合
バーチャルウオーター輸入国上位9カ国

日本は降水量が多く、水資源が豊富なイメージがあるかもしれない。しかし、地形が険しく、川の流れが急で海に流れる分も多いため、利用できる水資源は決して多くないのが実情だ。理論上利用できる最大限の水の量である「水資源
日本は利用できる国内の水資源が少ない中、バーチャルウオーターの輸入という形で海外の水資源を大量に消費し、輸入先の国で水不足が発生している――。バーチャルウオーターという考え方を通すと、このような現実が見えてくる。
水問題に関しては日本政府も重視しており、国内主要水系の水資源開発を進めるための「水資源開発基本計画」を策定するなど対策を推進している。各自治体も水問題への取り組みを行っている。
熊本市は市民の生活用水を地下水で100%賄っているが、地下水が減少傾向にあることから水源
これまでもナイル川、インダス川、ヨルダン川などの水利権をめぐって国際的な紛争が発生している。水資源をめぐって「水戦争」が起きかねない状況ともいわれており、水の問題はさらに緊張度を増している。地球上には約14億立方キロメートルの水があるが、ほとんどが海水だ。そのうち人間が使えるのは0.01%。バーチャルウオーターの考え方は、限りある水資源を世界で適切に共有するためのひとつの重要な観点になるだろう。
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