中小企業こそ実践したい!

チームビルディングのイロハ

互いへのリスペクトで
ジェネレーションギャップを克服

「従業員にやる気がない」「人が育たない」「すぐに辞めてしまう」
といった人に関する悩みを抱えていませんか。
従業員のモチベーションをアップし、企業を成長させる
理想の組織はどうすればつくれるのかを紹介します。

  • ジェネレーションギャップ
  • リスペクティング行動
  • 沢渡あまね
更新

この記事のポイント

  • 世代間のぎくしゃくは経営リスクにつながる
  • リスペクティング行動を実践する
  • トップはきっかけづくりと能力開発への投資をしよう

世代間における価値観や考え方、文化などによるズレや違いをジェネレーションギャップという。ベテラン、若手を問わず、組織の中でジェネレーションギャップを感じた経験を持つ社員は少なくない(図A)。多くの企業や自治体で組織開発を手がける沢渡あまね氏は「様々な組織で、ジェネレーションギャップからの"綱引き"によるぎくしゃくが多発しています」と話す。

仕事においてベテランの圧が強すぎると、若手の新しい発想や活動が組織の中で認められにくくなる。組織の文化や行動が固定化して若手が定着せず、人材採用も思うように進まない。革新的な方法が生まれにくくなり、世の中のニーズに応えられず顧客離反を招く負の流れが生じる。

逆のケースもある。組織側が若手や新人に迎合しすぎたり、若手の管理職がシニアやベテランを軽視したりして、モチベーションを下げてしまう。場合によってはベテラン社員がメンタルを病む現象も起きる。

図A ジェネレーションギャップを感じた経験

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若手社員に対して感じたことがある:74.2%、先輩社員に対して感じたことがある:78.9%
出典:男女564人に大調査!職場で「ジェネレーションギャップ」を感じた瞬間トップ10(株式会社ネクストレベル)

「一部の人や世代だけがけん引し、それ以外は従属するだけの組織では一人ひとりのキャリアが形成されません。人材が育成されないリスクが大きく、組織そのものの経営リスクにもつながってしまいます」と、沢渡氏は警鐘を鳴らす。

互いのリスペクトでギャップを払拭

ジェネレーションギャップを乗り越えるにはどうすればよいのか。沢渡氏はその解を、「様々な世代の立場・意見・背景を理解しながら答えを出し、共創の能力や習慣を組織としても個としても身につけること」とする。企業経営を車の運転に例えるなら、共創とは複数の人が乗り長く走るロングドライブだ。同じ人がずっと運転していると、当然ながら疲れがたまる。組織も同様だ。ベテランや管理職といった特定の世代だけがハンドルを握り続けると、運転する側だけでなく運転を任せた側も、いつの間にか能力や意欲が低下してしまう。複数のメンバーでドライバーを交代すれば、長く安全に運転し続けられる。

ドライバー役を代わる、すなわち役割の固定化を崩すと視野が変わる。普段マネジメントをしている場合は、別の誰かに権限を委譲すると動きやすくなり生産性が上がるかもしれない。あるいはプレーヤーとして現場に立てば、新たな仕事の面白さが見つかるかもしれない。役割の固定化回避で、関心の対象が広がり、気持ちも楽に動きやすくなるのだ。

昨今の中小企業では、跡を継いだ2代目・3代目の若手経営トップが生まれたり、若手が管理職になったりするケースも多い。そうした場合もポジティブに受け止め、お互いの役割を考える機会と捉えるとよい。

もちろん初心者のうちは運転もおぼつかない。道に迷ったりエンストしたりもするだろう。そのようなときこそ、同乗者であるベテランの本領が発揮される。頼り・頼られるうちにお互いの意見や背景への理解が深まり、ジェネレーションギャップも払拭される。

このとき重要なのが、お互いに敬意を払うリスペクティング行動だ。他者へのリスペクトは世代にかかわらず必要な要素だが、長い間年功序列・統制管理型で仕事をしてきた人には苦手な場合もある。指示命令するのが管理職の仕事と捉え、若手に権限を委譲したり意見を取り入れたりするのに慣れていないからだ。あるいは自分が叱られながら教育され、同じように接するのが正しい、そうしなければならない固定観念に縛られているケースもある。若手側も、管理職の言われるままに従うのが自分の役割だととらわれている場合が少なくない。

加えて中小企業で起こりがちなのが、図Bのように若手社員を「この子」「うちの子」などと呼称するケースだ。そう呼ぶ当人に悪気はない。むしろ親近感を込めたつもりでさえある。だが呼ばれた本人や第三者からすると、未熟者扱いされた印象を持ちやすく注意が必要だ。

図B 中小企業で起こりがちなケース

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「今日はうちの子がお世話になって...」「この子は仕事ができるので...」

仕事を分解して改善を進める

互いにリスペクトしながら、広い領域で多様な世代がリーダーの役割を果たす。そうした理想的な組織をつくるために有効なのが、仕事内容の分解だ。仕事を大括りにせず、タスクやプロセスに分解して考えるのだ。

図Cは実際にとある中小企業で行われた業務改革プロジェクトの事例だ。業務改革を実施するにあたって、まず仕事を5つに分解した。その中のオフィスリニューアルのリーダーに若手を抜てきした。「居心地が良く働きやすい職場をつくる」をテーマに、全社員の意向を参考にしながらリニューアルを遂行した。それまで管理職やベテランの下で主体性を持たなかった若手が、多くの社員と対話をしながら進めたところ評価が高まり、若手自身の主体性も増して大きく成長する機会を得たという。

図C 業務改革の分解

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業務改革:DX導入、働き方改善、外部委託検討、業務プロセス見直し、オフィスリニューアル

仕事を分解すると、改善の余地や新たな方法を取り入れる余裕が見えやすくなる。例えば、部下に仕事を任せたとき「できません」という反応があったとしよう。「なぜできないのか」と頭ごなしに叱責するのではなく、まずは仕事を分解してみる。すると「それならできる」部分が見つかるはずだ。どうしてもできない部分があれば、そこだけを誰かに任せて進めてもらう方法もある。仕事を分解して粒度を変えると、大括りでは見えなかった業務の在り方や仕事の進め方が見えてくる。ひいては自社の強みや弱みも発見でき、最終的には仕事の効率化にもつながる。

トップの役割はきっかけづくりと能力開発への投資

「前述のような状況が生み出せたのは、仕事を分解し、任せられる部分は若手に任せるトップの決断があったからです。トップの役割は、まさにそこにあるといえるでしょう。様々な世代の能力を生かすためにトップが行うことは、こうしたきっかけづくりと個々人がリーダーとなり得る能力開発への投資です」と沢渡氏は言う。
今や能力開発の手法も多くの方法がある。特に、業務遂行に必要なロジカルシンキングやクリティカルシンキングのセミナーはリアル、オンラインいずれも多く開催されている。関連書籍もあまた出版され、最近ではオーディオブックなど"耳で本を読む"選択肢もある。知識的なインプット以外にも、社員が自ら動きたくなる設備投資も効果的だ。製造業であれば、工作機械を業務目的だけでなく自由に使える機会を設けるのも良い。自発的な創作意欲・制作意欲をかき立てるきっかけになるからだ。

沢渡氏は「多くの組織を見る中で、成長しない社長は現場に居たがる傾向があると感じます。社長がずっと現場に居続けると、社長の視野は広がらないし、後任も育ちにくい。社長の視野が広がらなければ、会社の視野も広がりません。その状況が続くと、業績が頭打ちになったり人が辞めてしまったりして、気付けば残されたのは、ただ従うだけのイエスマンという悲しい結末になってしまいます」と危惧する。

経営者は常に時代の先をキャッチするために、視野を広く視座を高く持たねばならない。トップの決断によって組織は大きく変わる。ジェネレーションギャップに左右されない組織をつくるために、トップは率先して現場を離れ、外に向かってその一歩を踏み出すことが重要だ。

監修

沢渡 あまね

あまねキャリア代表取締役CEO

1975年生まれ。作家、企業顧問、ワークスタイルおよび組織開発専門家。「組織変革Lab」主宰。ダム際ワーキング協会共同代表、大手企業 人事部門・デザイン部門ほか顧問。プロティアン・キャリア協会アンバサダー、DX白書2023有識者委員。日産自動車、NTTデータなど(情報システム・広報・ネットワークソリューション事業部門などを経験)を経て現職。400以上の企業・自治体・官公庁で、働き方改革、組織変革、マネジメント変革の支援・講演および執筆・メディア出演を行う。趣味はダムめぐり。#ダム際ワーキング 推進者。組織改革・マネジメント変革に関する著書多数。