偉人の軌跡をめぐる旅

    桂浜公園には月の名所として知られる美しい砂浜が広がる

    架けられた当時の形で復元されたはりまや橋。はりまや橋・葉山庭園よさこい公園にある

    有名な「日本を今一度せんたくいたし申候」が中央に記される(複製)

    八畳岩から高知市街と太平洋を一望。龍馬と良助はここで将来について語り合ったと伝わる

    偉人の軌跡をめぐる旅

    維新の立役者・坂本龍馬を訪ねて
    高知[ 高知県 ]

    • 坂本龍馬
    • 桂浜
    • はりまや橋
    • 坂本龍馬記念館
    • 田中良助旧邸
    更新

    土佐藩士・坂本龍馬は倒幕の立役者として知られる。
    傑物ぞろいの維新志士の中でも特異な存在だ。
    時代の先を見通す先見性、グローバルな視点を持っていた。
    生まれ育った高知をめぐり、龍馬が描いた未来図に思いをはせる。

    若き日の龍馬はすでに
    世界の中の日本を見ていた

    桂浜(かつらはま)公園は高知を代表する景勝地だ。太平洋に面した壮大な景色が訪れる人を魅了する。弓状に広がる白砂青松(はくしゃせいしょう)の浜と、紺碧(こんぺき)の海が見事な景観を生み出す。

    桂浜公園には月の名所として知られる美しい砂浜が広がる

    桂浜公園東端に位置する高台、竜頭岬(りゅうずざき)には最も有名な坂本龍馬像が立つ。台座を含めた高さ13.5mの龍馬像が見つめるのは、太平洋の彼方だ。龍馬は藩の枠を超え、世界の中での日本、これからの日本のあるべき姿を模索し続けた。巨大な像は、龍馬の先見性やグローバル意識を巧みに表現している。

    大海原の彼方を望んで桂浜公園の高台に立つ坂本龍馬像。彫刻家・本山白雲(もとやまはくうん)の作

    桂浜公園の西端にある竜王岬(りゅうおうざき)には、海津見(わだつみ)神社がある。海の神様をまつり、地元の漁師や船乗りたちが船の安全な渡航や災難除け、豊漁を祈った。絶景の海を見渡せる立地でもあり、全国から多くの人が訪れる。

    桂浜公園の西端に位置する竜王岬。海津見神社はパワースポットとしても知られる

    坂本龍馬は1835年、高知城下の本町筋に5人兄弟の末っ子として生まれた。高知市内の坂本龍馬誕生地には石碑が立っている。商業の盛んな地だった。当時、豪商の播磨(はりま)屋と(ひつ)屋が、堀川(ほりかわ)をはさんで商売を行っていた。双方の行き来に架けた私設の橋が、観光名所として知られるはりまや橋だ。橋は何度か架け替えられ、堀川は埋め立てられた。現在は昔の橋が再現され、往時の街の風景を偲ぶ場所となっている。

    左上/坂本龍馬誕生地の石碑。龍馬の誕生当時、坂本家の広い邸宅があった
    右上/龍馬誕生地には、坂本家の家紋をあしらったベンチが整備されている
    下/架けられた当時の形で復元されたはりまや橋。はりまや橋・葉山庭園よさこい公園にある
    高知市中心部を流れる鏡川。坂本家に近く、龍馬が泳いだと伝わる

    坂本家は土佐藩の下級武士の家だった。当時、力のあった商家・才谷屋(さいだにや)の分家で、龍馬は育った。近くに鏡川(かがみがわ)が流れ、幼少期の龍馬もよく遊んだと伝わる。

    龍馬は14歳のころ、近くの日根野(ひねの)道場に入門し、剣術の腕を磨いた。19歳になると、江戸の千葉定吉(ちばさだきち)道場の門を叩き、剣術の稽古に明け暮れた。現代の留学に当たる江戸での修業は、裕福な家庭環境だからこそ実現できたといえる。日本各地から優秀な人材が集まった千葉定吉道場は、政治的リーダーや起業家を育成する機能も担ったと伝わる。修行中、龍馬は米国から来た黒船を目の当たりにする。約1年の江戸滞在は、龍馬の視座に多大な影響を与えたと考えられる。

    高知市内ではあちらこちらで、龍馬の像に出くわす。ほとんどが、誰もが見たことのある有名な龍馬の肖像写真と同じ姿だ。龍馬は右手を懐に入れ、遠くを見つめている。肖像写真は1860年代、日本に写真技術が入ってきた初期に長崎のスタジオで撮影された。
    高知駅前の広場には、幕末の志士である中岡慎太郎(なかおかしんたろう)武市半平太(たけちはんぺいた)と共に、坂本龍馬像が立つ。3体とも、実は青銅製ではなく強化プラスチック製だ。大型台風が接近した際には、像を台座から外し、損傷を防ぐべく移動させて保管する。全国的にも珍しい台風から避難する像だ。

    左/高知駅前にある坂本龍馬(中央)・中岡慎太郎(右)・武市半平太(左)の像
    右/龍馬郵便局には全国から龍馬ファンが訪れる

    坂本龍馬誕生地から徒歩2分ほどの場所には、龍馬郵便局がある。全国で唯一、実在した人物名の郵便局だ。建物前には龍馬像が鎮座する。待合室には記念切手をはじめとした龍馬関連グッズが展示され、ファンが訪れる観光名所となっている。

    日本が進むべき道を
    模索し続けた生涯

    高知県立坂本龍馬記念館では、龍馬の人物像に迫る展示が充実している。龍馬が筆まめだったことから、多数の書簡資料が存在している。現在、全国でこれまでに約140点確認された龍馬の真筆書簡のうち、同館が14点を所蔵する。

    左上/桂浜公園の高台にある高知県立坂本龍馬記念館
    右上/子どもが楽しみながら学べるユニークな展示もある
    左下/龍馬が襲撃された近江屋の部屋も忠実に再現されている
    右下/常設展示室には龍馬の手紙を中心とした貴重な資料が並ぶ
    寺田屋の女将に宛てた龍馬真筆の手紙。真筆の展示は2カ月おきに替わる

    時には緊張感が伝わる剛健な筆致で、時にはリラックスした伸びやかな筆致でと、龍馬の文面は多彩な印象を見せる。通底するのは相手への気遣いが感じられる丁寧な表現だ。優しく気配りに長けた龍馬の息吹が感じられる。

    龍馬は、特に仲が良かった3歳上の姉・乙女(とめ)に多くの手紙を書いた。ユーモアあふれる文章の中には、日本の進むべき道や政策アイデアがしばしば記されている。
    1863年、27歳の龍馬が乙女に宛てた手紙は、龍馬の信念が垣間見える一通だ。文中に龍馬の名言として知られる「日本を今一度せんたくいたし申候(もうしそうろう)」の一文が確認できる。汚れてしまった日本を根本から立て直したいとの意志が伝わる。龍馬が早くから、解決すべき社会課題は日本全体にあることを認識していたと、残された書簡は物語る。

    左上/鹿児島への新婚旅行の様子を絵と共に、姉・乙女に伝える手紙(複製)
    右上/有名な「日本を今一度せんたくいたし申候」が中央に記される(複製)
    左下/位の高い人物に向けた手紙では、龍馬が達筆であったと分かる
    右下/龍馬が高杉晋作からもらったピストルの同型実物

    高知市街から北山を目指し、車で30分ほど走った柴巻地区に田中良助(りょうすけ)旧邸がある。坂本家が所有する広大な山は、田中家が管理していた。龍馬はよく田中家を訪ね、15歳年上の良助と兎狩りや囲碁将棋を楽しんだとの言い伝えがある。良助は剣術や鉄砲術を会得し、芝居にも通じた博識な人だった。龍馬は青春時代に良助との交流で武芸を磨き、教養を深めていったと考えられる。

    左/龍馬がよく訪れた田中良助旧邸。高い石塀が、切妻造り桟瓦葺きの平屋を強風から守る
    右/保存状態の良い部屋は往時の暮らしの雰囲気を今に伝える。内部公開は毎週金~日曜日

    田中良助旧邸からさらに北山を登り、細い山道を100mほど歩くと、八畳岩(はちじょういわ)にたどり着く。崖に露出した巨大な岩の上の、8畳ほど平らになった場所だ。龍馬と良助はしばしば八畳岩に座り、酒を酌み交わして語り合ったと伝わる。岩の上からは、かつて高知城下だった市街地を一望でき、奥には大きく広がる太平洋の水平線が遠望できる。

    八畳岩から高知市街と太平洋を一望。龍馬と良助はここで将来について語り合ったと伝わる

    龍馬は良助から2両の金を借りた。龍馬直筆の借用証文は、龍馬が土佐を脱藩する前年のものだ。龍馬が重罪だった脱藩を敢行して向かったのは江戸だった。米国への渡航経験をもつ勝海舟(かつかいしゅう)に会い、グローバルな思考に感銘を受け弟子となる。
    その後、龍馬は、長崎に商社である亀山社中(かめやましゃちゅう)をつくり、後に海援隊(かいえんたい)と改称した。敵対関係にあった薩長(さっちょう)同盟を成功させ、大政奉還(たいせいほうかん)にも尽力する。

    大政奉還からわずか1カ月後、龍馬は暗殺された。脱藩から5年後だった。
    脱藩前に八畳岩から見た雄大な景色は、龍馬の壮大な夢、より良い国づくりへの情熱をかき立てたに違いない。

    ちょっと寄り道

    土佐の味覚をまるごと料亭で

    土佐の伝統的なお座敷文化を守り、芸妓(げいぎ)舞妓(まいこ)のお座敷遊びを楽しめる料亭。昼は予約限定で、本格的な料亭日本料理をリーズナブルに味わえる。昼献立の土佐づくし昼膳は、名物を盛り込んだ人気のセットだ。取材日には、カツオのたたき、さらし鯨、あおさの天ぷら、高知に伝わる田舎寿司が並んだ。どの季節にも土佐の味覚が満載の昼膳だ。

    ■料亭 濱長
    高知県高知市唐人町6-6
    https://www.k-hamacho.com/

    土佐づくし昼膳 3850円
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