
日本の常識は世界の常識にあらず
意外と知らない世界の文化
英国の食事が
おいしくないといわれる理由

- 国名
- 英国
(グレートブリテンおよび北アイルランド連合王国) - 面積
- 約24.4万km2
- 人口
- 約6944万人(2025年推定)
- 首都
- ロンドン
- 公用語
- 英語(ウェールズ語、ゲール語等使用地域あり)
- 英国
- 英国料理
- アフタヌーンティー
- ビジネスマナー
- 階級社会
この記事のポイント
- 英国はイングランド、ウェールズ、スコットランド、北アイルランドの4カ国(地域)で構成される
- 調理はシンプルで薄味。自分で好みの味付けにして食べるのが英国流
- ビジネスでは「イエス」「ノー」を明確にし、その理由も伝える
ヨーロッパ大陸の北西岸の沖合に位置する英国は、グレートブリテン島とその近辺の島々、並びにアイルランド島北東部から構成される。「英国」「イギリス」は通称で、正式国名は「グレートブリテンおよび北アイルランド連合王国」といい、イングランド、ウェールズ、スコットランド、北アイルランドの4カ国(地域)で構成される。最も広く使われるのは英語だが、ウェールズ語、スコットランド語、ゲール語(アイルランド語)も公用語とされる。
料理の種類も多様で英国料理という枠の中には、イングランド料理、ウェールズ料理、スコットランド料理等が存在する。そんな英国の食事について、まずいというイメージを持つ人が多いようだ。
そのルーツを遡ると、英国内で20世紀前半に始まった食生活の改善にたどり着く。兵士の貧弱な体格や貧困層の偏った食事が問題視され、バランスの良い食事の大切さを伝える啓発活動や、給食の普及、社員食堂の設置といった食糧政策が行われた。しかし、重視されたのは栄養面のみで、おいしさの追求は二の次だった。国民全体の栄養状態が改善された一方で、浸透したのがプロテスタント的な「食事は楽しむものにあらず」という伝統的な価値観だった。英国人は食への関心が薄いといわれるのも、このような歴史的背景によるとされる。
シンプルな味付けから自分好みにする
英国人は外食をあまり好まない。英国民の年代にもよるが、毎日の食事を冷凍食品や缶詰でまかなう家庭もあり、食への関心の低さを表している。英国は冷凍食品大国ともいわれ、冷凍食品の1人当たりの消費量は世界でも常に上位だ。近年、冷凍食品の質はかなり向上したものの、食を楽しむ人から見ると少々味気無い印象を受ける。
調理の簡素さも、英国の食事がまずいといわれる理由の一つだ。英国料理の多くはゆでる、焼く、揚げるといったシンプルな方法で調理され、薄味に仕上げる。例えばフィッシュアンドチップスも、白身魚やポテトにはほぼ味が付いていない。自分でモルトビネガーやタルタルソース、塩を使い、好みの味付けにして食べるのが英国流なのだ。
食事がおいしいとされる国と比較され、相対的に食事がまずいと評される面もある。西ヨーロッパには、フランス、イタリア、スペインと、世界でも指折りのグルメ大国が多く、味に求められるハードルが必然的に高くなるからだ。
とはいえ、近年の英国では食に関心を持つ人が多くなり、おいしいものを求める人も増えてきた。ロンドン市内にはフランス、イタリア、インド、中国といった他国の料理が味わえるレストランも軒を連ね、若年層を中心ににぎわいを見せる。英国での食事がおいしくないというのは、もはや固定観念かもしれない。
紅茶は生活の一部
英国人は食への関心は薄いが、紅茶へのこだわりは強い。紅茶は英国の国民的飲料である。飲み方はミルクティーが最も多く、紅茶に入れるミルクは常温で使うのが一般的だ。日本でおなじみのレモンティーを扱う店は少ない。
英国には(コーヒーブレークではなく)ティーブレークという習慣があり、息抜きや来客対応、仲間と交流するたびに紅茶を飲む。量は1日当たり5~7杯といわれる。
王室を中心とした上流階級発祥の文化で、「フォートナム&メイソン」「トワイニング」といった王室御用達の紅茶ブランドも多い。これらは上質な香りと味わいで、世界各国からも高い評価を得ている。

アフタヌーンティーは上段にペストリー、中段にスコーン、下段にサンドイッチと配置されるのが一般的で、下段のサンドイッチから食べていくのが基本的なマナーだ
日本で人気の「アフタヌーンティー」も英国上流階級発祥の文化だ。1840年代に社交の場として流行したのが始まりで、現在は誕生日や祝い事、大切な人と特別な時間を楽しむものとして親しまれる。紅茶と一緒に3段のスタンドに盛り付けた、ペストリー、スコーン、サンドイッチを提供するのが、英国流のクラシカルなスタイルだ。格式高いホテルでは、ドレスコードがあり、近寄りがたいと感じるかもしれない。気軽に楽しみたい場合は、街中や美術館、博物館に併設されているカフェに足を運ぶと良いだろう。
あまりお腹が空いていない、手軽に済ませたい場合は、クリームティーをおすすめしたい。クリームティーは、スコーンと紅茶のセットで、ジャムとクロテッドクリームという濃厚なクリームをスコーンに塗って食べる。価格もアフタヌーンティーより手ごろで、普段使いにちょうど良い。
ビジネスの会食はランチにて行う
ビジネスの話にも触れていこう。
英国人はワークライフバランスを重視し、公私のめりはりをきっちり分けるといわれている。一般的な労働時間は週40時間ほど。定められた時間以上は働かないのが基本で、残業はほとんどせず、定時になるとすぐに会社を出る。帰宅後は夕食づくりを手伝い、家族サービスに徹する。食事の後片付けや皿洗いを男性が進んで行うのも、英国の日常風景だ。仕事が忙しいときは、始業時間より早く出社して早朝残業で仕事を片付ける。
「今日はここまで仕事をする」という線引きが曖昧で、ついだらだらと遅くまで仕事をしがちな日本人は、英国人の働き方を大いに見習いたい。
終業後はプライベートと割り切る。商談を交えた会食はランチ時に行われる。その席にワインやシャンパンをはじめとしたアルコール類が欠かせないのも、日本とは異なる風習といえる。英国では、仕事中でもオフィシャルな会食にはワインは不可欠。英国人との商談に臨むときは心得たい。
英国人はビール好きの印象を持つ人が多いが、実は大のワイン好きでもあり、消費量も多い。洋食のみならず中華料理等にもワインを合わせる人も多いので、食事をする際は好みを聞くのをおすすめしたい。
「イエス」「ノー」を明確に

英国人と仕事をするときは身だしなみに気を付けたい。ちなみに、スーツは英国(ロンドン・メイフェアーのサヴィル・ロウ)発祥といわれている
最後に英国人と交流するうえでの注意点をいくつか述べたい。
英国はいまだに階級社会といわれ、服装や話し方で出身階級を判断する傾向がある。それゆえビジネスの場に限らず、外見を整えるのはマナーの基本と心得よう。
会話で注意したいのは、「イエス」「ノー」をはっきり伝えることだ。日本人には言葉を濁すようにして、否定か肯定かが伝わりにくくさせる表現の仕方がある。会議時にひたすらうなずく動作も何を考えているのか分かりにくく、英国人は好まない。自分の考えや主張は言葉にしてはっきりと伝えよう。
イエス、ノーの後に理由を添えるのも大切だ。「こうです」「いいですね」という結論だけで会話を終わらせずに、「なぜなら(because)」という説明を必ず加えよう。「言わずとも察するのが当たり前」の日本人の感覚だと、理屈っぽく感じるかもしれない。だが英国では、主張を明確に伝えるために不可欠なプロセスだと理解しておこう。
休暇中にメールや電話で仕事の連絡をしないのも大切なマナーだ。英国人にとって休暇は労働者の権利で、プライベートとビジネスを完全に切り分けるのが常識だ。休日に仕事や接待を行うのは、発展途上国の考え方と捉える人もいるほどだ。特に気を付けたい。
英国人は真面目で慎重な人が多く、ビジネスでもプライベートでもなかなか距離を縮めにくい。だが、一度打ち解ければ親友のように接してくれる。もし素っ気ない態度を取られても、相手の価値観を理解し、少しずつ歩み寄れば信頼関係の構築につながるはずだ。
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宇野 毅
明治大学経営学部 教授